新緑に小雨の注ぐ一日、埼玉県東松山にある丸木美術館へ行ってきました。経済的に継続が厳しくなってきたと伝えらる同美術館では、心ある創り手たちによる「支援芸術祭」も行われていていました。
「原爆の図」は、四曲一双の大屏風(180㎝×720㎝)に描かれていて、同館には、「原爆の図」15部すべてが展示されています。第1部「幽霊」から「火」、「水」「虹」…と並べられた大作の前を順々に歩いていくと、衣服をはぎ取られた被爆者の世界に引き込まれていきます。手だけを前に垂らして歩く全身火傷の群像、死んでいる子を抱く母親、水に浮かぶ無数の屍、命が絶たれた少年少女たち、死体に群がるカラス……。「ピカドン」と称されてきた一瞬の殺戮のむごたらしさに、声を失います。
ヒロシマ・ナガサキから60年、チャルノブイリから20年。核のもたらす犠牲は、大気・人体・農作物すべてを汚染し、次世代の命へも障がいを及ぼすことを、私たちは学んだはずです。しかし、現在、核兵器はその数と威力を増しつづけ、地球に拡散しています。日本では、幾たびもの事故と地域住民の反対にもかかわらず、原子力発電によるエネルギー政策を見直すことはありません。
丸木美術館は、都幾川に面した緑豊かな場所にあります。位里さんの墨と俊さんのデッサンによる、ほぼモノトーンの静かで祈りの籠もった作品がそこにあります。お二人のアトリエも解放されていて、見学者はそこでビデオや美術書を見たり、お茶やお弁当も広げられる場になっています。60年前の戦争を追体験し、また、私たちの子どもたちへ原爆の悲惨を伝えるかけがえのない場を無くしたくないな、と実感しつつ戻ってきました。
生活者ネットワークでは、これからも引き続き、このように、地域から平和を考える機会を皆さんとつくっていきたいと考えています。 事務局長・小川宏美